ロックが自由だったころ、あのギターが駆け抜けていった 大人になったロック・ファンへ、もう一度あの場所に

   ロック・ファンになら誰にでも、想い出のコンサート会場があるはずだ。その建物の近くに行くだけで、あの日あのとき胸を熱く焦がし、感涙にむせんだ瞬間が蘇る、そんな忘れられない場所である。私が人生で最初に観た来日アーティストのライヴは、10CCだった。77年のことだ。そのとき初めて行ったのが東京・中野サンプラザ・ホールだった。中央線中野駅のほぼ駅前にそびえ立つ、でかい跳び箱のような外観も強い印象となった。以降、何度そこに足を運んだことだろう。そして同じ77年5月にその場所で初来日公演を行ない、伝説的なコンサートとして語り継がれているのがデイヴ・メイスンである。あれからおよそ34年。彼がサンプラに帰って来る。
 メイスンの音楽的業績は、今日ではスワンプ・ロックの先駆者と捉えられている。イギリス出身のミュージシャンで、スティーヴ・ウィンウッドと共にトラフィックの主要メンバーやソロ・アーティストとして、あるいはデラニー&ボニーらとの関わりなどを通じ、アメリカ合衆国の豊潤な音楽要素(もちろんそれだけではないが)を縦横に取り入れて、60年代後半から70年代にかけてロックが表現領域を拡大し続ける牽引力を担った。ロック・シーンにスワンプ・ミュージックの流れを持ち込んだイギリス人ギタリストとしての重要性は、同じ時期のエリック・クラプトンに見劣りするところはない。私のような77年に高校生だった世代にとって、メイスンはまた、70年代の日本における洋楽ロック・アーティストの在り方を象徴する存在でもあった。30歳そこそこだった年齢を今から考えると、その風貌はほとんどのLPジャケットで顔の下半分を覆うようにたくわえていた髭のためもあり、とても老成したイメージだったし、何よりも奏でていた音楽自体に溢れ出る覇気や勢いと同時に実に大人な味わい深さが感じられたのである。そして、ロックそのものに異なる次元の表現力があった。青臭い言い方だが、大らかな自由が漂っていた時代のロックは若者の、われわれの音楽だった。それは表現者が音楽に投影した自身の姿を、聴き手の側も自分の気持ちと寸分違わず重ね合わせて受けとめることができたからだろう。そんな時代のメイスンの作品は、歌心が、あるいは音心が滲み出るものばかりだった。スワンプの秘宝であるのと同様、AORの源泉であり、またジャム・バンドのルーツ的な意味合いも求められるように多彩で深淵。かつ、どれもがデイヴ・メイスンならではのブレのないレコードばかりである。

   メイスンはその後も80年、90年、91年、93年と日本を訪れている。ただ、80年代以降は、アルバム『明日へのチャンピオン』(80年)での「セイヴ・ミー」でマイケル・ジャクソンをデュエット・パートナーに迎えるなど先験的な姿勢を示しているものの、それ以前に比べると充実しているとは言い難い活動状況のようだ。このころのクラプトンがとりわけ日本でちょっとオシャレに枯れたギター親父的スーパー・スターのキャラクターで幅広く大衆の人気を得たのに対し、95年のアルバム『タイム』を残したフリートウッド・マックへの正式参加(もちろん短期間で脱退)など、ややもすると履歴から外されがちなほどである。専門誌の特集、ベスト盤や復刻盤での紹介でも、そのあり余る才能に比しての不遇ぶりが記されることが多いのも少々残念だ。だが私は現在のメイスンが観たい。高校生も51歳になった。もっと達観できていると思っていたのに大間違いだ。だからこそ、変わらない心の持つ輝く価値に触れ直したい。好きなだけロックを聴いていた時代からは、想像もできない無為なことで大切な日々がすぎ去っているのかもしれない。そしてそれが大人になったということであり、それが人生を生きるということだと知らず知らずに思い込んでいる。でも、本当にかっこいいロックを耳にしたときに蘇ってしまうあの感じは、誰をも絶対に裏切らないもののはずだ。
   ファンはもちろん駆けつけるだろう。そして、来日の報を耳にし、あの時代にロックに触れ、音楽が醸し出した特別な空気を愛し、現在の自分へとまっすぐに結びついている決して消え去らないグルーヴを思い出した者は、きっと集うはずだ。
   あれからずいぶん時間が経ってしまったけれど、ロックや恋や小説や映画が今も人生にとって意味も意義もあることを忘れていないあなたには、ぜひ、あのでかい跳び箱を目指してほしい。
追記: 大阪の方、ごめんなさい。サンプラを厚年かフェスに、置き替えて下さい。

2010年11月12日 記

ディスク・ジョッキー

矢口清治

※動画をご覧いただく際はブラウザ画面左上にあります、ON/OFFボタンをOFFにお切り替えの上ご覧ください。

dave mason
dave mason

1946年5月10日(現在64歳)、英・ウスター生まれ。ギタリスト、シンガー・ソングライター。67年、スティーヴ・ウィンウッドらと共に、「トラフィック」を結成しました。(アルバム2枚を発表した後、メイスンは脱退。) ジミ・ヘンドリックス、ローリング・ストーンズ、デレク&ドミノスらとのセッションを経て、70年にアルバム『アローン・トゥゲザー』でソロ・デビューしました。1973年にCBS(現ソニー・ミュージック)へ移籍し、『忘れえぬ人 (It’s Like You Never Left)』、『スプリット・ココナッツ』、『流れるままに (Let It Flow)』など、コンスタントにアルバムを発表。とりわけ、1976年発表のライヴ盤『ライヴ~情念 (Certified Live)』は、70年代を代表する名作ライヴ盤の一枚に数えられています。心地よくレイドバックしたギター・サウンド、ソウルフルなヴォーカル、爽やかでキャッチーなメロディーは、幅広いロック・ファンから人気を獲得しました。90年代「フリートウッド・マック」に参加した後、現在もレコーディングに、ライヴに精力的に活動を続けています。

discography
Dave Mason Original Album Papersleeve Collection 完全生産限定盤 2010年4月14日発売 ■解説・歌詞・対談付き■2010年デジタルリマスター■オリジナルを忠実に再現した紙ジャケット仕様 ※完全生産限定版につき、タイトルによっては販売が終了している場合もございます。お近くのCDショップまでお問い合わせください。メイスンの黄金期1973年から1981年の作品を最新リマスターとUS盤オリジナルLPのアートワークを忠実に再現。多くの音楽ファンから愛されたギター・プレイと歌が、ここに再び輝きを放つ!アメリカのルーツ・ミュージックを土台にしながら、流行のサウンドも取り入れ、ポップなセンスとソングライティングの才能を大いに発揮し、渋いヴォーカルと非常に心地のいいギター・・・デイヴ・メイスンが残したこれらの作品群は、間違いなく黄金期のものだ!
忘れえぬ人(1973年作品)IT’S LIKE YOU NEVER LEFT 移籍第一弾となる5thアルバム。ブルースに根ざした見事なギター・プレイに暖かい歌声、ソウルフル&ファンキーなサウンドと、聴き応え十分の内容。ジョージ・ハリスン、スティーヴィー・ワンダー、グラハム・ナッシュなど豪華な顔ぶれが参加しています。

1. とどかぬ愛 / BABY…PLEASE
2. エヴリ・ウーマン / EVERY WOMAN
3. 愛をみつけて / IF YOU’VE GOT LOVE
4. 愛のめぐり逢い / MAYBE
5. ヘッド・キーパー / HEAD KEEPER
6. 夜明けのストレンジャー / MISTY MORNING STRANGER
7. 語らぬ友 / SILENT PARTNER
8. サイド・トラックト / SIDE TRACKED
9. 孤独な人 / THE LONELY ONE
10. 忘れえぬ人 / IT’S LIKE YOU NEVER LEFT

デイヴ・メイスン(1974年作品)DAVE MASON ソロ6thアルバム。ゲストは起用せず、気心の知れた自らのバンド・メンバーと共に制作。リラックスした雰囲気のなかに、ポップ・センス溢れるソングライティングが発揮された内容になりました。ジミ・ヘンドリックスとの共演で知られる⑤「見張塔からずっと」(ボブ・ディランのカバー)の再演も収録。

1. 愛を与えて / SHOW ME SOME AFFECTION
2. 明日への道 / GET AHOLD ON LOVE
3. エヴリ・ウーマン / EVERY WOMAN
4. 友に手をさしのべて / IT CAN’T MAKE ANY DIFFERENCE TO ME
5. 見張塔からずっと / ALL ALONG THE WATCHTOWER
6. 悲しき叫び / BRING IT ON HOME TO ME
7. ハーモニー&メロディ / HARMONY & MELODY
8. リレイション・シップ / RELATION SHIPS
9. 人生の夢 / YOU CAN’T TAKE IT WHEN YOU GO

スプリット・ココナッツ(1975年作品)SPLIT COCONUT スワンプ・テイストや西海岸サウンドからの影響を感じさせる、メイスン流レイドバック・アルバム。バディ・ホリーのカバー曲②「恋の待ちぼうけ」では、カリビアン風のリズムを取り入れるなど、音楽性の幅を広げています。デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、マンハッタン・トランスファーらがゲスト参加。

1. スプリット・ココナッツ / SPLIT COCONUT
2. 恋の待ちぼうけ / CRYING, WAITING & HOPING
3. 冷たい女 / YOU CAN LOSE IT
4. シーズ・ア・フレンド / SHE’S A FRIEND
5. セイヴ・ユア・ラヴ / SAVE YOUR LOVE
6. 理由なき別離 / GIVE ME A REASON WHY
7. トゥー・ギター・ラヴァーズ / TWO GUITAR LOVERS
8. スウィート・ミュージック / SWEET MUSIC
9. 故き友のように / LONG LOST FRIEND

ライヴ~情念(1976年作品)CERTIFIED LIVE ロサンゼルスでのコンサートの模様を収録したライヴ・アルバム。ジム・クリューガーのブルージーなギターと、ジェラルド・ジョンソンのファンキーなベースが絡み合い、バンドの一体感が再現された名作ライヴ盤の誉れ高い作品です。ボブ・ディラン(DISC 1-④)、イーグルス(DISC 1-⑤)、サム・クック(DISC 2-④)のカバー曲も演奏。

1. フィーリン・オールライト / FEELIN’ ALRIGHT
2. パーリー・クイーン / PEARLY QUEEN
3. 愛を与えて / SHOW ME SOME AFFECTION
4. 見張塔からずっと / ALL ALONG THE WATCHTOWER
5. テイク・イット・トゥ・ザ・リミット / TAKE IT TO THE LIMIT
6. 理由なき別離 / GIVE ME A REASON WHY
7. サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー / SAD AND DEEP AS YOU
8. エヴリ・ウーマン / EVERY WOMAN
9. ワールド・イン・チェンジズ / WORLD IN CHANGES

流れるままに(1977年作品)LET IT FLOW 楽曲と演奏のクオリティの高さ、代表作と呼ぶにふさわしい仕上がり。ヒット曲②「ウィ・ジャスト・ディスアグリー」をはじめ、ソウル・テイスト満点の④「スペンド・ユア・ライフ・ウィズ・ミー」や、ファンキーなグルーヴ感溢れる⑤「テイキン・ザ・タイム・トゥ・ファインド」など聴きどころ満載。

1. ハイな気分 / SO HIGH (ROCK ME BABY AND ROLL ME AWAY)
2. ウィ・ジャスト・ディスアグリー / WE JUST DISAGREE
3. ミスティック・トラベラー / MYSTIC TRAVELLER
4. スペンド・ユア・ライフ・ウィズ・ミー / SPEND YOUR LIFE WITH ME
5. テイキン・ザ・タイム・トゥ・ファインド / TAKIN’ THE TIME TO FIND
6. 流れるままに / LET IT GO, LET IT FLOW
7. イッツ・オールライト / THEN IT’S ALRIGHT
8. めぐりゆく季節 / SEASONS
9. ユー・ジャスト・ハフ・トゥ・ウェイト・ナウ /
YOU JUST HAVE TO WAIT NOW
10. ホワット・ドゥ・ウィ・ガット・ヒア / WHAT DO WE GOT HERE?

黄金の蝶(1978年作品)MARIPOSA DE ORO 前作の流れをくみ、明るさと伸びやかさを感じさせる一枚。後にエリック・クラプトンとの仕事で知られるジェリー・ウィリアムスと大半の曲を共作(歌とギターでも参加)。他にもサックス奏者のアーニー・ワッツ、スティーヴン・スティルスがゲスト参加しています。キャロル・キングの名曲⑥「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」の秀逸カバーを収録。

1. ドント・イット・メイク・ユー・ワンダー / DON’T IT MAKE YOU WONDER
2. サーチン / SEARCHIN’ (FOR A FEELING)
3. オール・ガッタ・ゴー・サムタイム / ALL GOTTA GO SOMETIME
4. ウォーム・デザイアー / WARM DESIRE
5. ウォーム・アンド・テンダー・ラヴ / WARM AND TENDER LOVE
6. ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ /
WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW
7. シェア・ユア・ラヴ / SHARE YOUR LOVE
8. バード・オン・ザ・ウィンド / BIRD ON THE WIND
9. ソー・グッド・トゥ・ビー・ホーム / SO GOOD TO BE HOME
10. ザ・ワーズ / THE WORDS
11. ノー・ダウト・アバウト・イット / NO DOUBT ABOUT IT

明日へのチャンピオン(1980年作品)OLD CREST ON A NEW WAVE 楽EW&Fやボス・スキャッグスを手がけたジョー・ウィザートをプロデューサーに迎え、持ち前のメロディーやハーモニーの美しさはそのままに、シンセサイザーやエフェクティヴなギター・サウンドを取り入れた80年代型デイヴ・メイスンといえる作品です。⑥「セイヴ・ミー」には、あのマイケル・ジャクソンが参加!

1. 君にシビレテ / PARALYZED
2. 僕の友達 / YOU’RE A FRIEND OF MINE
3. ミッシング・ユー / I’M MISSING YOU
4. トーク・トゥ・ミー / TALK TO ME
5. ガッタ・ビー・オン・マイ・ウェイ / GOTTA BE ON MY WAY
6. セイヴ・ミー / SAVE ME
7. ライフ・イズ・ア・ラダー / LIFE IS A LADDER
8. 帰りたくて / TRYIN’ TO GET BACK TO YOU
9. ゲット・イット・ライト / GET IT RIGHT
10. 明日へのチャンピオン / OLD CREST ON A NEW WAVE

ベスト・オブ・デイヴ・メイスン(1981年作品)THE BEST OF DAVE MASON 栄光のCBS時代を1枚にまとめた、入門編としても最適なベスト盤。『流れるままに』に収録の①②は、全米チャート45位、89位。『デイヴ・メイスン』に収録の③も、ヒットこそしていませんが代表曲。『黄金の蝶』に収録の④はキャロル・キングの、『デイヴ・メイスン』に収録の⑤はボブ・ディランの名曲の名カヴァー。『流れるままに』に収録の⑥は、全米12位の最大ヒット曲。『明日へのチャンピオン』に収録の⑦は、80年代型メイスン・サウンドが新鮮。名曲⑧は『忘れえぬ人』にも収録されていますが、ここでは1974年の『デイヴ・メイスン』ヴァージョンを収録。『ライヴ~情念』に収録の⑨⑩は、圧巻のステージの模様を伝えてくれます。

1. 流れるままに / LET IT GO, LET IT FLOW
2. ハイな気分 / SO HIGH (ROCK ME BABY AND ROLL ME AWAY)
3. 愛を与えて / SHOW ME SOME AFFECTION
4. ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ /
WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW
5. 見張塔からずっと / ALL ALONG THE WATCHTOWER
6. ウィ・ジャスト・ディスアグリー / WE JUST DISAGREE
7. 君にシビレテ / PARALYZED
8. エヴリ・ウーマン / EVERY WOMAN
9. オンリー・ユー・ノウ・アンド・アイ・ノウ /
ONLY YOU KNOW AND I KNOW
10. フィーリン・オールライト / FEELIN’ ALRIGHT